
鳥取県が誇るブランド米・星空舞
突然ですが、下記の写真は日本人にとっては馴染み深い風景の一つ、稲刈りを終えた稲を天日干しする風景です。日本の農業を象徴する風景であるとともに、どこか穏やかな気持ちにもなるもの。特に『おこメディア gohan』を愛読されている方なら、この気持ち、わかっていただけるはずでしょう。

稲が天日干しされる様子。機械乾燥ではない昔ながらのやり方で、ある意味SDGs的とも言えます
しかし、上の稲刈りと天日干し、どこの地域で行われたものだと思いますか? 新潟? 北海道? 秋田? 山形? ……ノンノンノン! 全部違います。ここはなんと東京・六本木ヒルズの屋上だったのです。

六本木ヒルズの屋上庭園でお米が作られていました

上空から屋上庭園を見るとこんな感じです
どういうことかと言いますと、六本木ヒルズには一般客が入れない「屋上庭園」というものがあり、そこで毎年異なる県のお米を栽培しているのだそうです。この1年はSDGsに特に熱心な鳥取県のブランド米・星空舞を作っていると聞き、迷わず筆者も見学に行ってきました。今回は、この六本木ヒルズの試みと星空舞の成り立ち、このお米を通してのSDGsの試みについてご紹介します。
六本木ヒルズの屋上庭園では毎年違うお米が作られていた!
まずは六本木ヒルズの屋上庭園について、同ビルを運営する森ビルの井上瑞希さんにお聞きしました。

森ビル・タウンマネジメント事業部の井上瑞希さん
――六本木ヒルズの屋上に屋上庭園があり、そこでお米が作られているとは驚きでした。
井上瑞希さん(以下、井上) よく驚かれます(笑)。この屋上庭園はあくまでも非公開エリアで、六本木ヒルズにお住まいの方、オフィスで働かれている方を対象に「都会の中でも自然を感じられる場所」をコンセプトに設けられたスペースです。
六本木ヒルズでは地方文化、食文化の発信に少しでも寄与したいと考えており、中でも稲作文化は大切で、地域の方々やお子さんたちに親しんでいただけるよう、また交流を深めていただけるよう、こういったスペースを設けています。当初、特にSDGsを意識しての取り組みというわけではありませんでしたが、結果的にSDGsにも通ずる試みになっていると思っています。
――具体的には、どんなことを行っているのでしょうか。
井上 昔ながらの脱穀機を置き、定期的な体験会を行ったり、お餅つき大会をやったりというものです。また、2006年からは地方自治体とコラボレーションして、毎年違う県のお米を育てています。
――それで今年は鳥取県の星空舞というお米を作っているというわけですね。
井上 はい。今年の星空舞もこうやってメディアの方にご紹介いただけることは本当にありがたいです。スペースなどの都合で一般公開できないところが残念ではあるものの、六本木ヒルズの屋上庭園は弊社が考える「都市と緑の関係性の提案」という点で意義のある試みだと自負しています。是非今後も様々なメディアを通して弊社の思いを知っていただきたいと思っています。

今年のお米は星空舞ですが、来年はまた違う県のお米になるようです
30年もの歳月を経て完成した、鳥取県の星空舞
続いては、今年、六本木ヒルズの屋上庭園で作られた鳥取県のブランド米・星空舞について、鳥取県市場開拓局 食のみやこ推進課の稲本充加子さんに話をお聞きしました。

鳥取県市場開拓局 食のみやこ推進課の稲本充加子さん

鳥取県のブランド米・星空舞
――SDGsには早くから力を入れていた鳥取県ですが、そういった背景の中でブランド米・星空舞は生まれたのでしょうか。
稲本充加子さん(以下、稲本) 星空舞はSDGsが世界的に叫ばれるようになったことで作られたお米ではありません。ただし、もともと星空舞を作るにあたって取り組んでいたことが、結果的にSDGsにも繋がっていると考えています。
もともと鳥取県はコシヒカリの生産量が多い地域でした。しかし、コシヒカリという品種は、夏の高温に弱く、暑さにさらされると品質が下がりやすい面がありました。また、コシヒカリは肥料をやりすぎると稲の背丈が高くなりやすくく倒れてしまうことも多い上、稲の病気・いもち病(空中を飛散したいもち病菌の胞子が、別の稲に落下し、そこに水滴があると繁殖するもの。雨の時期に感染しやすい)などの問題も改善する必要がありました。
こういった「お米の弱点」を改善する品種を目指し、30年もの歳月をかけて作ったのが星空舞です。
――30年とはかなりの歳月ですね。
稲本 通常の品種育成は両親となるお米を選び、一回だけの交配が主流です。しかし、これでは「倒伏や病気に強く、さらに味の良い品種」は生まれにくいことから、ササニシキを母親に、そしてコシヒカリの系譜のゆめそららを父親として交配。さらに、その子どもにゆめそららを、そしてその子どもにゆめそららをと、品種改良を行ってきました。
――頭が混乱してきました……でも、このように何度も諦めることなく交配を繰り返し、品質を改良していったということですね。
稲本 はい。結果的に障害に強く味の良い品種ができあがり、2018年に星空舞と命名し販売をスタートしました。
鳥取県は「星取県」といわれるほど県内全域で美しい星を見ることができます。環境省の全国星空継続観察では何度も日本一になりました。こういった背景もあり、星空舞という名になりました。

農家の「期待の星」として、また「食卓の星」としてのニーズを担った星空舞
星空舞を通して、子どもたちへお米の大切さを伝える教育も
――そういった自然環境の豊かさも鳥取県の特徴です。こういった背景からSDGsに熱心に取り組まれているのでしょうか。
稲本 そうだと思います。私は直接的な鳥取県のSDGs担当ではありませんが、自然環境の保護はもちろん、働き方の改善や暮らす人々にとっての支援といった面でも鳥取県の取り組みは全国でも抜きん出ているように思います。
ちなみに星空舞は、小学校や中学校の学校給食に出していただき、前述の星空舞の成り立ちやお米の大切さを合わせて学校で説明させていただくような取り組みも行っています。
――うかがっていると、星空舞だけでもSDGsの目標である2(飢餓をゼロに)、4(質の高い教育をみんなに)、13(気候変動に具体的な対策を)、15(陸の豊かさを守ろう)など、いくつも当てはまりますね。
稲本 はい。星空舞を通して、今後さらなる環境面や人に優しい取り組みができると良いなと思います。

2020年の「都道府県SDGs調査」(ブランド総合研究所調べ)では全国1位にもなった鳥取県。環境への思いはもちろん星空舞にも反映されています
自然環境に優しく味も優れた星空舞
――今年は六本木ヒルズの屋上庭園でも星空舞が作られたそうですが、今後もこういった試みは柔軟に行っていかれますか?
稲本 もちろんです。星空舞は鳥取県の有力な品種ですし、鳥取の水田を守り生産しながら、さらに全国の方々に知っていただき食べていただけるよう、何かに繋がっていける試みはどんどんやっていきたいと思います。
――最後に、肝心の星空舞の味の特徴と、まだ食べたことがない方にメッセージをお願いします。
稲本 星空舞の味の特徴は「白米が綺麗で透き通っている」「炊いたお米の艶が優れている」「お米の美味しさの指標『味度値』が高い」「適度な粘りと、弾むようなしっかりとした『粒感』」「水を抱き込む量が多く、冷めても食感が変わらず美味しい」といったものです。本当に良いこと尽くしのお米だと思います。
是非自然環境に優しく、味も優れている星空舞を多くの方に食べていただければ嬉しいですね。

これからも鳥取県のお米・星空舞に注目しましょう
実は筆者、星空舞のうまさに驚愕し取材後、個人的に10キロ購入したほどです。あくまでも個人的な感想ですが、ササニシキのようなお米のさっぱり感と粒感に、甘さだけでないお米特有の風合いを豊かに感じるお米でした。直接的なSDGsを意識して作られたわけではないもの、稲本さんのお話にもあった通り、結果的にSDGsにいくつもリンクするお米でもあります。是非一度チェックされてみてはいかがでしょうか。

食べれば、笑顔でキラキラ輝く☆ 「星取県」鳥取生まれの米の新品種「星空舞(ほしぞらまい)」。約20年の歳月をかけて開発したオリジナル米「星空舞(ほしぞらまい)」が、2019年・秋ついに本格デビュー。お求めは関東、関西、山陰の、鳥取県産米販売・取り扱い店、またはECサイトにて。
音楽事務所、出版社勤務などを経て2001年よりフリーランス。2003年に編集プロダクション・decoを設立。出版物(雑誌・書籍)、WEBメディアなど多くの媒体の編集・執筆にたずさわる。エンタメ、音楽、カルチャー、 乗り物、飲食、料理、企業・商品の変遷、台湾などに詳しい。台湾に関する著書に『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)、 『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『台湾迷路案内』(オークラ出版)などがある