廃棄米を「紙」として再生させる「kome-kami」

廃棄米を「紙」として再生させる「kome-kami」
ご存知の通り、お米にも賞味期限があります。家庭用として日常的にいただくお米であれば、ある程度、調整しながらお米のロスをなくすことはできますが、災害用備蓄食品として流通しているお米の場合、使用する機会が読めないこともあり、どうしても廃棄を余儀なくされるものも少なくないようです。
ある意味、「災害が起きなかったことでもあるから仕方ない」と思えなくもないですが、しかし農家の方々が大変な思いをして作ってくださったお米です。無駄に廃棄するのはやはりどうも気が引けます。
そんな災害用備蓄食品のうち、賞味期限切れなどでやむを得ず廃棄することになったお米に対し「なんとかしたい」と立ち上がったのが、関西全域を中心に紙の販売事業を行うペーパルという会社です。
全国各地の災害用備蓄食品の廃棄米を集め、「紙」として再生させる取り組みを行い「kome-kami」としてブランド化。製紙・印刷業界でも注目を浴びているそうです。
今回はペーパル代表で、「kome-kami」の取り組みに尽力する矢田武博さんに話を伺いました。

株式会社ペーパル・代表取締役の矢田和也さん。本来の製紙関連事業に加え、「食品ロスをなくす世界を目指していきたい」とのことです。
お米を大量の紙に転じるのは前例のない試みだった
ーーまず、日本でのお米の廃棄状況からお聞かせください。
矢田武博さん(以下、矢田) 食品廃棄物の推計量は2842万トンで、このうち、本来食べられたはずなのになんらかの事情で捨てられる、いわゆる「食品ロス」は646万トンと言われています。もちろん、この中にお米も相当数含まれているわけですが、ただし災害用備蓄食品はこの中には含まれていません。
毎日新聞社のアンケートによれば、全国47都道府県と20政令都市では2010~2015年まで3億円にものぼる備蓄食料を廃棄したという話もあり、ここでもやはりお米は相当数捨てられているということになります。
備蓄食料のお米の賞味期限は5年くらいと言われていますが、言い換えると5年間災害が起きなかった場合はその都度捨てられていくことになります。各組織は配布するなどの対策を行っていますが、どうしてもロスは出てしまうのが現状です。
特に昨年はコロナ禍で配布する機会がなくなり、ロスが増えたそうです。これは実にもったいないことですし、なんとかできないと思い、今回の「kome-kami」の構想に至りました。
ーー従来、こういった備蓄米はどのように処分されていたのでしょうか?
矢田 購入した業者に引き取ってもらい処分してもらうか、廃棄業者さんに頼んで処分してもらうかが多かったようです。
当初は、私自身もこういった現状を知らなかったし、特別フードロスに問題意識を持っていたわけではありませんでした。しかし、ある企業体験イベントで出会った滋賀大の教授の方がフードバンクの顧問をやられていた関係で、この現状を知りました。たまたま私自身が紙業界にいたので「なんとかしたい」と思い、「廃棄米を紙に再生する」ことを思いつきました。
ーー「お米を紙にする」といった事例は過去にあったのでしょうか?

収集した廃棄されるはずだった備蓄米
試行錯誤の末、廃棄米を粉砕しパルプと混ぜて紙へ
ーーどのような工程を踏んで、お米を紙にしていくのでしょうか?
矢田 まず、集めてきた備蓄用の廃棄米を粉砕します。それをパルプに混ぜ一体化させた上で紙にするというものです。
しかし、最初はなかなかうまくいきませんでした。お粉砕させるための機械にお米を入れると、傷つき劣化が早まるといった問題があり、全国の加工メーカーさんに問い合わせたのですが、「難しい」といった返答が大半でした。そんなことを1年弱くらい繰り返していたのですが、お米を細かく粉砕していただける業者さんを見つけ、「kome-kami」というブランドのスタートではそこにお願いしています。ただし、まだ試行錯誤の途中で今後、さらに生産を重ねていく際は、どうなっていくかわからない状況です。
ーーなかなか大変そうですが、そもそもの廃棄されるはずだったお米の収集はどのようにして行われているのですか?

廃棄米を機械で粉砕する様子

パルプと混ぜ、一体化させます

廃棄米を活用した紙の完成!
お米の質感とたくましさが、そのまま紙に反映された!
ーー実際にお米を再生した「kome-kami」の紙を手にしましたが、表面の風合いが特徴的ですね。良い意味でザラッとした風合いでありながら、お米のような艶やかな印象もあります。
ーー特に強度面ではいかがでしょうか? なんとなくお米由来の紙なので、「強度がありそう」というイメージを抱いていますが。
ーー存在価値としても、汎用性に富んだお米と通じる、使い勝手の広い紙に仕上がったわけですね。

独特の風合いがかわいらしく、またたくましくも映る「kome-kami」の紙は汎用性にも富んでいます
特殊紙ではあるが、市場から逸脱しない価格帯をキープ
ーーただし、こういった前例がなくロット数も限られたものはえてして高額にもなりがちです。「kome-kami」の価格帯はいかほどでしょうか?
矢田 現状では、確かに高額帯の紙にはなってしまいますが、流通している紙よりもはるかに高いわけではありません。一般的な特殊紙と同等の価格を維持しています。
この点も実はかなり気をつけたところでした。あまりにも紙が高くなってしまうと、せっかくの取り組みが浸透していきませんし、それこそ目的を達成することができません。市場から逸脱しないような価格帯で作ることも重要な条件として考えています。
ーーまだスタートしたばかりの取り組みですが、すでに反響も多いようですね。
ーーこれからさらに浸透していくことで、「kome-kami」の取り組みが広く認知され、さらに多くの人にとっての食品ロスの意識向上にも繋がると良いですね。
SDGsの「つくる責任、つかう責任」、「気候変動に具体的な対策を」に寄与
ーーSDGsには様々なカテゴリー、目標が掲げられていますが、「kome-kami」の試みはどれに当てはまるものだと考えていますか?
ーー目下の課題や、今後の展望がありましたら最後にお聞かせください。

「kome-kami」のフロー。今後もさらなる展開に期待大です。
現在、「kome-kami」製品の第1回のクラウドファンディングでの販売は終了していますが、今後も定期的にリリースされていくそうです。
お米好きの皆さん、是非最新情報をチェック・利用してみてください。そのこともまたSDGsに寄与することにもなりますよ!
紙の卸・卸問屋をお探しなら株式会社ペーパルへおまかせください。自社倉庫の豊富な在庫から、奈良を中心に大阪、京都、滋賀、兵庫、和歌山の近畿圏内はもちろん三重まで安価で迅速にお届けします。

食べられなくなった「お米」を活用した紙の新素材「kome-kami」を発売 | おこめディア gohan
https://gohan.life/articles/692株式会社ペーパルは、廃棄されたお米を活用してできた紙素材「kome-kami」(コメカミ)を2021年2月に開発しました。2021年4月14日から応援購入サイト「Makuake」にてkome-kamiを使ったノート・名刺の商品を販売します。 有償廃棄される災害用備蓄食品のお米や食べられないお米をパルプに配合しており、素材の売上の1%をフードバンクに寄付することで、フードロス問題の解決を目標とします。
音楽事務所、出版社勤務などを経て2001年よりフリーランス。2003年に編集プロダクション・decoを設立。出版物(雑誌・書籍)、WEBメディアなど多くの媒体の編集・執筆にたずさわる。エンタメ、音楽、カルチャー、 乗り物、飲食、料理、企業・商品の変遷、台湾などに詳しい。台湾に関する著書に『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)、 『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『台湾迷路案内』(オークラ出版)などがある