草木が芽吹き冬ごもりの虫も目覚める弥生「二十四節気七十二候」3月の暦

草木が芽吹き冬ごもりの虫も目覚める弥生「二十四節気七十二候」3月の暦

暮らしの中で季節を感じる指標「二十四節気七十二候」。古代中国で考え出されて日本に取り入れられて、米作りをはじめとする農業の目安にもなり、日本人の暮らしに欠かせないものに。そして長い年月を経て、日本の気候風土に馴染んできました。「二十四節気七十二候」を知って、季節の移ろいを感じ取り、心豊かな暮らしを送りましょう。


草木いよいよ芽吹き、冬ごもりの虫も目覚めて動き出す3月弥生。草木がいよいよ芽ぶき茂る様子を表す「木草弥や生ひ月(きくさいやおいづき)」が詰まって「弥生」となったと言われます。暖かくなったり寒くなったりを繰り返しながら季節は春へと動き出します。
畦に芽吹いたフキノトウもすっかり薹が立って田んぼの景色も春めき、今シーズンの米づくりがいよいよ始動。代かき前の荒起こしが始まります。

二十四節気「啓蟄」3月5日~19日

初候は「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)3月5日~9日」。冬ごもりをしていた生き物が地上に現れ、活動を始める頃となります。この時期は、寒気が上空に流れ込むため大気の状態が不安定で、雷が発生することも少なくありません。この雷鳴が地中の虫に春を告げる合図になるとされ、「虫出しの雷」と呼ばれて春の季語とされています。

撮影「Takashi Maki」

次候は「桃始笑(ももはじめてさく)3月10日~14日)」。まさに桃の花が開く頃。「笑」という文字は古くは「花が咲く」ということを指しました。確かに固い蕾が徐々にほころぶ様子は、やわらかな微笑みを連想させます。桃は古くから邪を払う力があるとされ、今も縁起の良いものとして喜ばれています。

続く末候は「菜虫化蝶 (なむしちょうとなる)3月15~19日」。厳しい冬を越した蛹が羽化し、蝶となって飛びたつ頃。金色に色づいた菜の花畑を白い蝶が飛び交う景色は、見る人の心をのんびりと穏やかなものにしてくれます。

撮影「Takashi Maki」

この時期に巡ってくる雑節のひとつで、農業にとって重要な節目となるのが春の社日です。これは、その土地を守護する産土神を祀る日で、春分の日に最も近い戊(つちのえ)の日に当たります。2020年の春の社日は3月16日。ちょうど種まきや種籾から苗を育てる作業を始める時期に重なることから、産土神に五穀の種をお供えして豊穣を祈る神事や祭りが執り行われます。

この頃になると、本格的な春はすぐそこ。どこからともなく沈丁花の香りが漂い、銀色の産毛をまとっていた白木蓮も蕾を割って真っ白な花を咲かせます。心浮き立つシーズンの到来です。

撮影「Takashi Maki」

撮影「Takashi Maki」

「啓蟄」のごちそう、菜の花ごはん

春の先駆けとして目と舌を楽しませてくれた菜の花も名残の時期。値段も手頃になったところで、花芽をたっぷり使った混ぜご飯を楽しみましょう。
用意するのは、昆布茶で軽く味付けして炊いたごはんと、彩りよく固めに茹でて水気をしっかり切った菜の花。炊き上がったごはんに、ひと口大に切った菜の花を混ぜるだけ。炒り卵を合わせれば、満開の菜の花畑のようなご飯の出来上がりです。春の漁がはじまったシラスの釜揚げや桜エビを一緒に混ぜたら、一層贅沢な春のごちそうに。

撮影「Takashi Maki」

二十四節気「春分」3月20日~4月3日

昼と夜の時間がほぼ同じ長さになるのが春分。この日を境に昼間の時間が夜よりも長くなります。春分の前後3日間を含む7日間は春のお彼岸。昔から「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるように、長かった冬もここまで。季節は待ちに待った春へと移ります。
田んぼの畦にも可愛らしい土筆が芽を出し、摘み草を楽しんだ子供の頃を思い出させてくれます。

撮影「Takashi Maki」

初候は「雀始巣(すずめはじめてすくう)3月20日~24日」。雀が巣を作り始める頃。秋に稲穂をついばむ雀は、稲作農家にとって少々困った存在ではありますが、古くから私たちの生活のそばにいて身近な存在。春先にこしらえる「雀の巣」や、春に生まれるひな鳥を指す「雀の子」は春の季語でもあります。

次候は「桜始開(さくらはじめてひらく)3月25日~29日)」。うららかな陽気に誘われて、桜の花が一輪また一輪と咲きはじめます。現在、私たちが最も身近に親しんでいるのはソメイヨシノ。江戸時代の終わりに染井村(現在の東京都駒込近辺)で生み出された品種で、枝いっぱいに霞のように花を咲かせる様は実に見事。明治期から日本全国に広まって、気象庁による開花予想の対象とされています。

撮影「Takashi Maki」

しかしソメイヨシノが桜の代名詞となる以前、桜といえば山桜が主流。もっと古くに遡れば、春の訪れとともに花を咲かせる木々全般をサクラと呼んでいたと言います。まだ冬枯れの色を纏う野や山にあって白い花を咲かせ、農作業のはじまりを告げる木々は、田の神さまが宿る依り代。秋田では辛夷を、岩手県では糸桜を「田打ち桜」と呼んで花が咲いたら田おこしを始めたとか。サクラの開花は米作りにとって大切な物差しでありました。桜を愛する日本人の心の底には、古代から連綿と続いてきた稲作文化があるのかもしれません。

撮影「Takashi Maki」

続く末候は「雷乃発声 (かみなりすなわちこえをはっす)3月30~4月3日」。田畑に恵みの雨を降らせる雷が遠くの空で鳴り始める頃。大空を横切る閃光と大地を揺るがす雷鳴に畏怖を抱かずにはおられない雷ですが、古くから米作りに縁の深いものとされてきました。
雷の別名の「イナヅマ」は古くは「稲夫」と書き、雷が稲穂を実らせると信じられたのだとか。昔から雷の多い年は豊作になると言われ「稲妻ひと光で稲が一寸伸びる」という言葉もあるほど。
実は、この言葉が迷信でないことは最新の研究で裏付け済み。雷の放電により空気中の窒素が雨に溶けて降り注ぎ、稲の成長を促進させているのだと明らかにされています。先人の智恵には真実が潜んでいるのだと実感させられますね。

「お彼岸」のごちそう、精進ごはん

自宅に仏壇のない家庭も多い今の時代、ピンとこないかもしれませんが、太陽が真西に沈む「お彼岸」は遥か西方にある浄土に思いを馳せ、ご先祖を供養するもの。仏教が生まれたインドにも中国にもない、日本独特の風習です。
このお彼岸に欠かせないのが、邪を祓う小豆を使ったぼた餅。また、動物性の食材や五葷(ごくん)と呼ばれる匂いの強い野菜の使用を避けた精進料理もお供えとされました。

今年のお彼岸は、その原点に帰って精進ちらし寿しはいかがでしょう。おいしいお米を炊いてすし酢で味を調え、出汁をふっくら吸ったお揚げさんや、香ばしい白ごまを合わせれば出来上がり。初物のうすい豆や木の芽を散らせば、材料も手順もシンプルながら味わい深い一品になります。

撮影「Takashi Maki」

この記事のライター

好きが高じて食をテーマに20余年、食べては書く日々を送るライター・エディター。

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