日本は四季の国。
春夏秋冬の移ろいが、暮らしに、風習に、食べ物に、
四季折々の彩りを添えてきました。
食いしん坊の人にとっては
暮らしの中で一番ビビッドに感じられる四季は
旬の食べ物かもしれませんね。
四季と食べ物を巡るエピソードで
人とごはんのつながりを辿る「ごはん歳時記」
さて今月のメニューは「恵方巻き」です。
そもそも「恵方」ってなに?
小学生の頃は京都に住んでいた。お正月が近くなると、駅には初詣のポスターが貼りだされ、そこには「新年の恵方、初詣は○○神社へ」という文字があり、子供心に「恵方」ってなんや?と疑問に思ったことを憶えている。
東京に引っ越してからは「恵方」にお目にかかることもなかった。しかし近年コンビニで「恵方巻き」が売られるようになり、それをある方角を向いて無言で食べると福が来ると語られるようになって、古い記憶の中から「恵方」が蘇ってきた。
恵方の方位(wikipediaより)
「恵方」はその年の年神様(歳徳神)がいらっしゃる方角だそうで、十干十二支の十干(甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸)で決まる方角。例えば「戊戌」(つちのえ・いぬ)の年なら「戊」の示す方角つまり「南南東のちょっと南」というのが恵方になるらしい。どうやら関西方面に伝わっていた風習のようである。でも僕が知る限りにおいてはお正月に関する話であって、節分のことではなかった。
※記事は2018年のものです。2019年は己亥なので恵方は東北東です。
なぜ今、恵方巻きなんだ?
「恵方巻き」の元祖は大阪の街で食べられていた巻き寿司だと言われているが、京都にいた僕はそんな風習は聞いたことがなかった。もちろん節分の豆まきは盛んだったが、豆まきをする寺社が「恵方」をアピールすることはなかったようだ。それほど認知度の高い風習ではなかったのではないかと思われる。節分と「恵方」を結びつけたのは「恵方巻き」を全国区に押し上げたコンビニ戦略だろう。
クリスマスにはケーキ、バレンタインにはチョコ、ひな祭りにはあられ、季節の祝い事には食べ物がつきものだが、「鬼+豆」の節分は少々地味だったかもしれない。そこで家族みんなが喜んで頬張る巻き寿司に脚光を浴びせたコンビニの慧眼は見事といえるだろう。
信じる者は救われる。
「恵方巻き」は「恵方を向いて・切らずに丸ごと・無言で食べる」のが掟らしい。
「福を巻き込み」「年神様との縁を切らず」「福を口から逃がさないように」いただくという意味らしい。巻き込む具材に決まりはないようだが、縁起のいい七福神にあやかって、7種の具材を巻く豪華版もあるようだ。
オトナでも巻き寿司1本を丸々食べるのは少々too muchかもしれないが、春の到来を祝って、野菜でも魚でも玉子焼きでも何を巻き込んでもいい巻き寿司にしてごはんをいただくということは、節分そして立春を迎えるにはふさわしい縁起のいい風習かもしれない。
四季のある日本では季節を迎える風習が数多く存在する。古からの風習も時代や暮らしとともに、少しずつ姿を変えていくのだろう。
「家族そろって黙々&もぐもぐと恵方巻きをいただく風習は平成のころから広まった」と22世紀のWikipediaは語るだろうか。