日本の米の作り手に聞く[1] - 小田原 志村屋米穀店 志村成則さん -

日本の米の作り手に聞く[1] - 小田原 志村屋米穀店 志村成則さん -

自らが生まれ育った小田原で、明治から続く米穀店を盛り立てながら、米作りに取り組む人がいます。 その人の目には、米づくりをめぐる環境や地域のこと、田んぼのこれからはどのように映っているのでしょうか。


地元の田んぼで自ら米作りに取り組む。

志村屋米穀店 5代目 志村成則(しむら しげのり )さん

田んぼは、お米をつくるだけでなく日本の原風景や伝統文化を紡いできた大切な場所。
それを次の世代に手渡すのも自分たちの役割です。(志村さん)

酒匂川の清流が田畑や町を潤し、やがて相模湾に流れ込む豊かな土地・小田原。
農を国づくりの礎として大切にした北条早雲のお膝元であり、卓越した農業・農政指導力で各地の農村復興に寄与した二宮尊徳が生まれた町で、明治から続く米穀店を盛り立てながら、自らも米作りに取り組む人がいます。その人の名は志村成則。米づくりをする中で見えてきたこと、地域のこと、人の暮らしと田んぼのこれからなど、お話を伺います。

ごはんのおいしさと楽しさを伝えてお米のニーズを広げる米穀店。

 小田原の浜にほど近い住宅街にある〈志村屋米穀店〉。ここが志村成則さんの実家にして、明治20年創業の老舗米穀店。代々受け継がれた店の一画が2年前にリノベーションされ、初めての個人客も入りやすい店構えになりました。

お米や雑穀、ギフトなどお米関連の商品が並ぶ店内。その他に小田原の産品も多数取り扱う。

 白木を配した店内は明るく、小田原をはじめ全国各地から選び抜いたお米が並んでいます。玄米はもちろん古代米や雑穀もずらり。小田原産米100%の米粉や米粉スイーツ、オリジナルパッケージのお米ギフトまでバラエティ豊かな品揃えは目移りするほど。

「大切にしているのは楽しさとオリジナル性。他では手に入らない、うちだけの商品をと工夫しています。ご希望があれば、お米の食べ比べも。毎日3種類、産地や品種の異なるお米や、雑穀をブレンドしたお米を炊いていて”味の違いがわかる”と喜んでいただいてます。そんなところから消費の減少を食い止めて、お米を好きだ!という人が1人でも増えてくれればと思っています」(志村さん)

日本人にお米はなくてはならない大切なもの。その確信をもって米作りの世界に。

 米穀店の人間として農家と食べ手をつなぐ一方で、成則さんは自らの田んぼを耕し、米を作る生産者としての顔も持っています。

「今の季節なら朝4時から田んぼに入って8時半から米屋の仕事。大変だけど楽しいですよ。でもね、子供の頃は米にまつわる仕事をやろうとは思ってなかった。高校生の頃は物理が得意で、将来はシステムの開発の仕事に就きたいなあと思ってました」

 大学は理工学部物理学科へ。ただ大学生になってバイトで離島の民宿を手伝ったり、親戚の田んぼを手伝ううち、小さい頃に親しんだ海や川が思い出され、次第に違う方向に目が向くように。自分にとって無理なくできることは何だろうか…。考えた末、就職先として選んだのは海洋調査の会社だったと言います。

「潜水士資格を持っていたのでフィールドに出ることが多くて。北海道以外、全国に行きましたね。日本中で、自然環境と人間と暮らしの現実をたくさん見ました。おかげで、海が川を通じて田んぼや山、人の暮らしとつながっていることを、頭じゃなくて肌で実感できました」

 この時に出会った人たちのおかげで、成則さんは人生の舵をさらに大きく切ることになります。

「調査を通じて自然相手に暮らす漁師さんや農家の方に出会って、格好いいなあと思ったんです。日に焼けて表情が生き生きとしてね。みんな、自分の仕事を全うしているなあと。一方で漁業も農業も後継者不足で今後が危ういという話も聞こえてくる。そこで考えたんです、今自分がすべきことは何だろうと」

 出た答えは、自身が第一次産業に携わること。海洋調査の仕事を続けながら友人や親戚の田んぼを手伝うこと2年、米づくりを一生の仕事にできるかどうか、自分の気持ちと体力を見きわめたうえで退職。父に紹介された小田原曽我の農園で、成則さんの生産者としての人生が始まったのです。

小田原市内に広がる成則さんの田んぼ。苗の生育も順調で、茎の中では穂がすくすくと育っている。

自然に寄り添ったシンプルな米づくりは、水源の森から流れる豊かで良質な水があってこそ。

 休耕田を借りて自分の田んぼを始めて今年で15年。最初の年を除いて、成則さんは農薬や化学肥料に頼らないシンプルな米づくりを続けてきました。

「一番考えなきゃいけないのは環境や生態系に与える影響。農薬を使った田んぼの水は支流に注いで酒匂川になり、河口に注ぐ頃には農薬が大変な濃度になる。その影響を減らしたいから自分は農薬を使わない。小田原は海の幸も自慢の土地柄ですから。陸が綺麗であれば海も安心安全、陸がよければ海の価値も上がる」

 ただ、こうした米を作ろうとすると安定した量の水が必要になると成則さん。

「雑草を防ぐには水を深くたっぷり張ること。そして、おいしく大きく育てるには水に豊富なミネラル分が必要なんです。そのためには水源の森が豊かでなくては。海を見れば川に、川を見れば田んぼに、田んぼを見れば森に目が向く。すべてが繋がるんです。よいお米を作るにはよい水が大切。だから水がつなぐ環境に目を向けなくては」 

 今、成則さんは水源の森の価値を広く知ってもらおうと、酒匂川の水源林がある山北町で仲間とともに田んぼアートに取り組んでいます。色や濃淡の異なる稲を植えて文字や絵を浮き上がらせる取り組みは年々評判となり、田植えや稲刈りのイベントには毎回100人以上の参加者が集まるほどに。

小田原市国府津の田んぼアート(左は2015年)。ここで栽培・収穫されたお米は希望者に販売。

「ここの水がうちの田んぼにも流れてくる。田んぼは単に食糧を作るだけの場所じゃないんです。生き物を育んだり、水をきれいにしたり、大きな洪水を防いだり、空気をきれいにしたり、いろんな機能をもっています。それに心癒される里山の景色も田んぼあってこそ」

 正月のしめ飾りをはじめとする日本の文化とも深いところで繋がっているといいます。

「収入が少ないから人手がないからと田んぼをやめては地域の伝統も廃れてしまう。たとえ人口が増えて宅地化の波に押されかけても、神奈川で米づくりを続けることには大きな意味があるんです」

おだあし田んぼアート2017『デゴニが走る!』稲刈りイベント参加者募集!

http://gohan.life/articles/108

神奈川県民の水源地の一つ山北町の素晴らしい景色の中で、抜穂祭、田んぼアート「デゴニ」の稲刈り。 子供たちはカエルと戯れ。大人はのんびり田んぼでカフェ。きっと秋のいい思い出になるでしょう。

神奈川県産米初の快挙! 食味ランキング特A獲得を起爆剤に。

 こうして米づくりから地域を元気にしていこうとする成則さんに、今強い追い風が吹いています。神奈川県産米〈はるみ〉が2016年の食味ランキングで最高ランクの特Aを獲得したニュースは、地元の生産者にも大きな衝撃を与えました。

「神奈川では初の快挙。収量では全国の1%にも満たないのに、それが魚沼コシヒカリと肩を並べたんです。甘みも粘りもあって、しっかりした味わい。全国からも大いに注目されてます。これが地元にとって一つの起爆剤になればいい。適正な価格で売れるとなれば自分も作ろうという人が増えて休耕田も減るでしょうし、地域の誇りにもなって米づくりに関心を持つ人も増えるでしょう」

 成則さんの田んぼでも今、〈はるみ〉がすくすくと育ち、穂が伸び花を咲かせようとしています。この田んぼが黄金色に輝き収穫を迎える頃には、「神奈川に旨い米あり!」のニュースが流れてくるに違いありません。

志村さんと奥様の尊子さん。

プロフィール

志村成則(しむら しげのり)さん

1973年生まれ。
小田原市内で1町6反の田んぼを耕す生産者にして、地域振興のキーマン。農業研修先で出会った尊子さんとの間に2児あり。
好きなごはんは白米+小田原名物の塩辛またはネギ醤油のせ。横浜タカシマヤで開催される「かながわ名産展」(8月30日~9月5日)ではミツハシライスのブースに登場予定。

志村屋米穀店
【住所】神奈川県小田原市浜町4-3-3
【TEL】0465-24-2224
【ホームページ】http://www.shimurice.com/

この記事のライター

好きが高じて食をテーマに20余年、食べては書く日々を送るライター・エディター。

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